第1作目
オーケストラのための童話
原作 宮沢賢治
作曲 林光
初演 ①1981年5月9日(レコーディング)/②1981年7月23日(コンサート)
指揮 佐藤功光太郎
独唱 佐山真知子 チェロ独奏 山岸宜公
会場 ①入間市民会館/②厚木市文化会館
1981年に発表された新星日響オリジナル親子向けコンサートの原点となる作品。前年の足立区のコンサートで演奏された自身の曲を作曲家林光が膨らませ「オーケストラのための童話」として全編を完成、親子向けに初演された。原作は誰もが知っている宮沢賢治の童話「セロ弾きのゴーシュ」。≪猫の訪問と「印度の虎狩り」≫≪かっこうのドレミファ≫≪仔だぬきのデュエット≫≪野ねずみの母子≫≪終曲:音楽会の夜≫とおなじみのストーリーが語りと共に林光の紡ぎ出した音楽で展開していく。来場の親子層にとってオーケストラを身近に感じる時間であった。この作品は1981年5月にレコード化されたのが先で、コンサートとしては同年7月23日の夏休み親子コンサートが初演となる。コンサートの反響の感触から、このような試みが未来の聴衆拡大につながると確信した新星日響は、この後も毎年親子向けオリジナル作品を制作していった。
第2作目
音楽物語
原作 黒柳徹子
作曲 小森昭宏
初演 1982年4月3日
指揮 小林研一郎
歌と語り 黒柳徹子
会場 簡易保険ホール
日本国内でベストセラーになった黒柳徹子の自伝的著書「窓際のトットちゃん」をオーケストラによる音楽物語で再現、「セロ弾きのゴーシュ」に続く新星日響親子コンサートの第2弾として打ち出した。当時黒柳はこの自著の映像化のオファーを全て断っていたが、音楽化なら自然に表現されるであろうと許諾した。作曲はNHKの音楽番組「ブーフーウー」で朋輩であった小森昭宏に委ね、同じく同番組で脚本を務めた劇作家の飯沢匡(新星日響理事長)も構成に加わる。オーケストラの演奏に黒柳自身も語りとして参加した。内容は「トモエ学園」における黒柳の子供時代を綴ったもので、オーケストラの団員がチンドン屋に扮し演奏するなどユニークな内容であったが、その中にも東京大空襲など戦争の怖さも織り込められ、日本中のお母さんや子供たちの笑いや涙を誘った。新星日響が生み出した最大のヒット作品となり、直ぐにレコード化されるなどその反響は大きかった。
第3作目
音楽物語
原作 黒柳徹子
作曲 小森昭宏
初演 1983年4月10日
指揮 佐藤功太郎
歌と語り 黒柳徹子
会場 東京文化会館
音楽物語「窓ぎわのトットちゃん」の大ヒットで翌年の親子コンサートでは同様に音楽物語「木にとまりたかった木のはなし」を制作した。これは黒柳徹子がかねてから絵本にしたくあっためていたお話で、彼女らしいとてもユニークな発想から生まれたストーリーである。「恰好のいい、やさしいきがありました。鳥なら、みんなが『とまりたいなあー』と
思うような木でした。ある日、木は、自分も、『木に、とまってみたいなあ』と思ったのでした。いつもお世話になっているので、鳥たちは、見晴らしのいい丘の上の木に、その木を
とまらせました。生まれて始めて見るいろんな景色に、木は、びっくりもし、うっとりもしました。そして、とうとう、木は、海に難破してた船にも、とまったのです。木のおかげで直った船は、ほうぼうを旅し、木は、ペンギンや、あざらしや、お船や、お魚や、お腹の空いた子供たちを、よろこばせました。」。この奇想天外な音楽物語は「トットちゃん」と同じコンビ、小森昭宏の作曲で構成され、初演時は黒柳みずから語りを務める。残念ながら「トットちゃん」のような成功は得られなかったが、その後本原作は武井武雄の挿絵を添えられ絵本として世に生み出された。
第4作目
オーケストラ絵本
原作 斎藤隆介/切り絵:滝平二郎
作曲 青島広志
初演 1984年4月7日
指揮 佐藤功太郎
語り 阿部六郎
会場 簡易保険ホール
祖父と二人で暮らす豆太は、夜中に一人で別棟のトイレに行くこともできないほどとても憶病だった。家の前にそびえたつ「モチモチの木」と名付けた大木が怖いのであった。ある晩突然、祖父が腹痛で苦しみ出す。豆太は勇気を振り絞り、真夜中に一人で家を飛び出して、助けを呼びに山を駆け降りるのであった。原作となったのは、斉藤隆介作と滝平二郎の挿絵で人気の高い絵本である。これに青島広志が作曲し、阿部六郎の語りで音楽物語として親子コンサートのプログラムとなった。オーケストラの真後ろには滝平二郎の切り絵を大きく映し出し、会場全体が絵本の世界に包まれた。会場の子供たちに真の勇気とやさしさをよびかける、心温まる作品である。
第5作目
オーケストラのためのファンタジー
原作 グリム童話
作曲 青島広志
初演 1985年3月24日
指揮 佐藤功太郎
歌と語り 黒柳徹子・妻島純子(A)・鹿野章人(T)
会場 簡易保険ホール
原作はご存知グリム童話の「いばら姫」の物語。王女の誕生のお祝いに呼ばれなかった魔法使いの呪いで、お城全体がいばらに包まれ100年の眠りにつく。そして時が経ち勇気ある王子の訪問で呪いが解け王女と王子が結婚し幸せに暮らす、というストーリーです。「モチモチの木」に引き続き作曲は青島広志が担当、初演は語りの黒柳徹子に津島純子(アルト)と鹿野章人(テナー)の2人の歌手が加わり、グリムの名作を本格的なオーケストラによる音楽物語として蘇らせた。
第6作目
音楽物語
原作 松谷みよ子
作曲 松井和彦
初演 1986年3月29日
指揮 佐藤功太郎
語り 八木光生 女神 佐藤しのぶ
会場 郵便貯金ホール
児童文学の松谷みよ子の作品「赤神と黒神」を原作にした音楽物語。笛の好きな心優しい赤神と、剣をひっさげた勇ましい黒神が、美しい歌声の女神をめぐってすさまじい戦いを繰り広げる。秋田の民話をもとにした古代ロマンにあふれる珠玉の名篇を、松井和彦作曲の美しい音楽にのせてオーケストラと一緒にタイムトラベル・・・。古代人のまっすぐな心があたたかに伝わってくる音楽物語。物語を紡ぐ語り手は、声優・俳優で定評の高い八木光生が務め、初演の前年秋にミラノ留学から帰国したばかりの佐藤しのぶが女神役としてその美声を披露した。これを機に新星日響と佐藤しのぶとの絆も深まっていく。飯沢匡が演出を担当する。
第7作目
オーケストラ・ファンタジー
脚本 西田豊子
構成・編曲 赤堀文雄
初演 1987年3月29日
指揮 田中良和
ベートーヴェン 熊倉一雄
会場 簡易保険ホール
毎年新作をつくり続けてきた新星日響だが、「トットちゃん」以降なかなかヒット作に恵まれない。そこで試行錯誤の上制作したのが音楽ファンタジー「トモコの不思議なベートーヴェン」だった。現代にタイムスリップしたベートーヴェンが、主人公の少女トモコの悩みに共感、トモコも難聴の苦しみにいるベートーヴェンに寄り添う。そして音楽の体験を通して二人の間に芽生える友情が生きる力を呼び起こしていく、という展開である。この物語をベートーヴェンの名曲で綴っていく、という構成であった。ベートーヴェンを演じるのは、落ち着いた演技力が評価される熊倉一雄、少女トモコには当時子役として人気のあった間下このみが起用された。西田豊子の脚本に新星日響のヴィオラ奏者である赤堀文雄がベートーヴェンの曲を挿入し命を吹き込む。この心温まる音楽物語は春休みの親子で初演されると瞬く間に拡大され、「トットちゃん」以来久々の大ヒット作品となった。
第8作目
映像と生演奏による
原作 R.ブリッグズ
作曲 H.ブレイク
初演 1988年3月27日
指揮 現田茂夫
語り 佐藤文行
会場 簡易保険ホール
原作は1978年イギリスの作家レイモンド・ブリックスの絵本である。世界中で大人気となったこの作品には文字が無く、絵だけでストーリーを進行させていく。そして1982年にアニメーションとなりイギリスの公共テレビ局「チャンネル4」でクリスマス・イブに放映され大成功を収めた。これも音楽と映像だけでセリフは一切無く、唯一冒頭にデヴィット・ボウイのナレーションが入るだけであった。このアニメも絵本同様大ヒットとなり、新星日響ではステージ上の大スクリーンにこのアニメを映し出し、生演奏で臨場感をもって観客に伝えた。内容は少年と雪だるま「スノーマン」が、1晩の短い時間の中で、出会いから世界中での様々なふれあい、そして別れ、多くのことを体験する楽しくもあり少し切ないストーリーである。少年とスノーマンが冒険に飛び立つシーンで流れる「ウォーキング・イン・ジ・エアー(空を歩いて)」は感動的で、全編にわたるハワード・ブレイクの美しい音楽と新星日響の演奏は多くの聴衆の心を惹きつけた。
第9作目
夢の音楽物語
原作 M.エンデ
作曲 山本純ノ介
初演 1989年4月2日
指揮 佐藤功太郎
語り 岸田今日子
会場 簡易保険ホール
原作の「モモ」は、ドイツの児童文学家ミヒャエル・エンデが1973年に発表したファンタジー作品である。´76年には邦訳が出版され、発行部数は世界で200万部を超えるベストセラーとなった。物語は施設から逃げ出し円形劇場に住み着いた少女「モモ」が主人公となる。平和な暮らしをしていたが、ある時突然あらわれた「時間どろぼう」達によって町が無機的な世界に変化していく・・・。忙しさの中で生きる喜びが失われる現代人に対する警鐘が含まれる内容であるが、まさに日本は、バブル景気のまっただ中で「働け、働け」「稼げ、稼げ」の時代で心の余裕、心の豊かさを失っていく時代でもあった。この台本に作曲したのは山本純ノ介。時間の芸術でもある音楽に彼独特のエッセンスをちりばめ「モモ」を紹介して行く。朗読はベテラン俳優の岸田今日子が務めた。
第10作目
音楽物語
原作 ジョイ・コーレイ作/ロビン・ベルトン絵
作曲 小森昭宏
初演 1990年7月24日
指揮 現田茂夫
語り 橋爪功
会場 サンシティ越谷市民ホール
ジョイ・コーレイ作、ロビン・ベルトン絵による絵本を語りとオーケストラによって新しく音楽物語として子どもたちに贈ったのがこの作品だ。
「将軍がある町を攻撃しようとした時、大砲の中になんとアヒルが巣をつくって卵を産んでいるではないか。将軍は市長と交渉して休戦をする。その間に兵隊たちは町の家のペンキを塗ってあげたり将軍は市長の家に遊びにいあったりして、卵がかえる頃には戦争がすっかりいやになってしまっていた」。
子どもたちに豊かなこころや平和な世界の大切さを届けることをテーマにしてきた新星日響らしい作品である。作曲は小森昭宏。語りは俳優の橋爪功、指揮は井上道義という豪華な顔ぶれによる親子コンサートであった。橋爪功の表現力は圧倒的で大人も子どもお話と音楽がマッチした世界に引き込まれた。終盤で卵がかえってかわいいアヒルのひながよちよち歩きをする場面では茶目っ気たっぷりの井上道義がおもちゃのアヒルたちを引き連れた。新星日響の若手事務局員のアイディアと実行力による本作は、お客さんの満足度、音楽物語の完成度ともに高く、これはこれまで継続してきた実績やノウハウが、若い世代の企画力に着実に受け継がれていったことのあらわれでもあった。