新井鷗子

新井鷗子
(構成作家、横浜みなとみらいホール館長)

 司会者が登場して楽曲の聴きどころを紹介し、指揮者やコンサートマスターやソリストにインタビューしたり、楽器の紹介をしながらコンサートが進む…。
 今では当たり前となった「おはなし」入りのオーケストラコンサート。子どもから大人まで誰もが親しみやすいクラシックコンサートのスタイルをいちはやく築いたのが、新星日本交響楽団だったといえるのではないでしょうか。
 一人でも多くの人にオーケストラの魅力を伝えたい、クラシック音楽の楽しさを知ってほしい、という気概に燃えた事務局のみなさんと共に、新星日響のたくさんのコンサートの構成・台本を手がけました。
 特にバレエやオペラの名曲を、役者による物語の「語り」付きで聴かせるシリーズは、新星日響の独壇場でした。なぜなら、当時ほとんどのオーケストラは、生演奏の音の上にセリフを乗せたり、曲と曲のあいだに演出の都合で間をあけたりすることを良しとせず、音楽の流れと物語の語りとを同時進行させることはほぼ不可能だったのです。しかし新星日響の団員さんたちは、そのような意図にとても柔軟に対応してくれました。若いメンバーが多かったから、という理由もあったかもしれません。彼らとのコラボレーションにより、「魔法使いの弟子」、「動物の謝肉祭」、「ペール・ギュント」などの語り付き上演台本が生まれ、今なお、日本各地のオーケストラコンサートで活用されています。
 現代ではインターネットによるYouTube等の普及により、クラシック音楽の楽しみ方も非常に多様化していますが、ライブのオーケストラコンサートの魅力が色褪せることは決してありません。新星日響は、ある一時代に、親しみやすいオーケストラコンサートのスタイルをきり拓き、日本のクラシック音楽の受容史に大きな足跡をのこしたといえるでしょう。
(新井鷗子/数々の新星日響名曲・ファミリーコンサートの構成を務める)